マネジメントにおいて、どんな時に「叱る」を使っていますか?
長年マネジメントをやっていても、あまり考えたことがなかったという方が多いかもしれません。
指導の方が効果的なのに叱ってしまったり、相手やその時の気分で叱る/叱らないの判断がぶれてしまったりと、良くない叱り方をしてしまっている方が意外と多いです。
今回は、「叱る」と「指導」の使い分けについて解説します。
指導や叱るの目的|改善すべき言動を、望ましい状態に導くこと
マネジメントにおいて指導や叱るを行う目的は、メンバーを育てることです。
改善すべき言動を指摘し、望ましい状態に導くために「指導」や「叱る」という手段を用います。
す。
しかし、マネジメントの現場では、目的を考えずに叱っている場面が多々あります。
メンバーの意見を聞かずに頭ごなしに叱りつけたり、問題の原因ではなく起きた結果に焦点を当てて怒ったり、「だからお前はダメなんだ」と人間性を否定したりするのは、正しい叱り方ではありません。
メンバーを叱る際、決してマネジャー自身の怒りの捌け口や、鬱憤を晴らす目的になってはいけません。
きちんと叱る目的を理解し、叱るべき場面で、正しい叱り方ができるようにしていきましょう。
叱るという行為は、信頼関係がないと使えない
「叱る」はそもそも信頼関係がない段階では使えません。
信頼関係がない人から叱られた場合、ストレスである「叱る」に対し正面から向き合おうとはしないため相手に響きません。
叱られた側からするとストレス以外のなにものでもなく、反発心や心理的負荷を与えます。
叱るという行為は、信頼を消費する行為です。
叱ることで、多かれ少なかれ、部下との関係性はすり減ります。
つまり、「叱る」を多用すると、そのうち積み重ねた信頼は無くなってしまいます。
信頼関係が無く行う「叱る」は、パワハラと受け取られやすく注意が必要です。
また、「叱る」は威圧的になりやすく、叱り方によっては、周囲からパワハラと受け取られるリスクがあります。
アンガーマネジメントは大前提
「叱る」について語る際、アンガーマネジメントという言葉がよく取り上げられます。
アンガーマネジメントとは、「怒りをコントロールするスキル」のことです。
1970年代のアメリカで生まれ、当時は犯罪者の矯正プログラムとして作成されましたが、現在では一般化され、企業研修や子育てをする親など、広い用途で使われています。
怒りは心の動きであり、怒りを生まないようにするのは不可能です。
そのため、怒りの感情が生まれた際に、その感情に気付き、上手く分散することで、衝動的な行動を引き起こさないようにするというのが、アンガーマネジメントの考え方です。
実践方法として、「6秒ルール」が有名です。
その名の通り、怒りが湧いたら6秒数えるという方法です。人の怒りのピークは長くても6秒と言われており、それを超えると徐々に怒りの感情が鎮まっていきます。怒りの感情が爆発しそうな時は、まず6秒数えてみて下さい。
ここまで解説してきたように、アンガーマネジメントは自身の怒りをコントロールするというものです。
自身の感情をコントロールするのは、マネジャーに限らず社会人に必要不可欠な大前提のスキルです。
もし、急に怒ったり、一方的に叱りつけたりしてしまっている場合は、自身の怒りの感情のコントロールができていない状態なので、まずは自身のアンガーマネジメントについて考え直し、衝動的に怒るという行為を防ぐ方法を身につけましょう。
「指導」と「叱る」の使い分け方
「指導」「叱る」はどちらもメンバーを育成する目的で、改善すべき言動を指摘し、望ましい状態に導く手法という点は共通ですが、それぞれ伝え方や、得られる効果が異なります。
それぞれの特徴を理解し、状況に合わせて「指導」と「叱る」を使い分けることが大事です。
- (+) 相手が自分で答えに辿り着くことで、学習効果が高く定着する
- (+) 信頼関係を高める
- (-) 問いで導く力が弱いと時間がかかる
- (-) 相手が問いに答えられない場合も多い
- (+) 叱られたことが強く印象に残る
- (+) ルール違反や怠慢が原因の場合に効果的
- (-) 相手にストレスがかかり萎縮させてしまう
- (-) 信頼残高を消費する、信頼関係ができていないと効果がない
- (-) 多用するとパワハラリスク
基本的に、「叱る」を使うべき場面は非常に限定的です。
上記でまとめたように、叱るは、相手に強く印象が残る一方で、ストレスがかかる、萎縮させてしまう、築いてきた信頼関係の貯金を消費する(信頼関係が悪化するリスクをはらむ)というマイナスの特徴があり、多用するものではありません。
また、メンバーとの信頼関係が築けていることが、叱るを使うための前提条件であり、マネジメントの土台であるメンバーとの信頼関係が築けていない場合は、いくら叱っても相手に響かず、信頼関係を壊すだけになってしまいます。
例えば、ある優秀なマネジャーは、初めての部下とは必ず1on1で、業績や目先の仕事に関係なく1時間くらいお互いの話をするようにしているそうです。こうした活動による信頼構築をして初めて、「叱る」というカードが使えるようになるとのことでした。
信頼関係ができている前提で、叱るが効果的なのは、以下のような場合です。
・コンプライアンスや社内ルールなど誰もが守るべきルールの違反
・本人も自覚している本人の怠慢(怠慢しなければできたことをやらなかった場合)
・一度指導した言動と同じことを繰り返した場合(ダメと共通認識がある言動)
本人がダメなことと知っていながら、それに反する言動をとった場合に「叱る」が有効です。
逆に、上記以外の大半のケースでは、「叱る」が逆効果になってしまうため、問いを使って導く「指導」の方が適切です。
「叱る」が効果的な場面を理解し、それ以外の場面では「指導」を用いるようにしてみてください。
よく陥りがちな過ちは、ダメなことを繰り返したときの「叱る」の使いどころです。
「叱る」が適している場面ではあるのですが、「できなかったのか」、それとも「やらなかったのか」によって対応は異なります。
「やらなかった」は叱ってよいのですが、「できなかった」は仮に繰り返したとしても叱ってはいけません。
それでは、本人のやる気を削ぎ、萎縮してもっとできなくなってしまいます。
「指導」で、どうしたらできるようになるか、ミスを発生させない仕組みを考えさす、など根気強くコミュニケーションを取り部下を導きましょう。
(参考)部下を成長させる指導法
叱るポイントと注意点|叱る対象、叱る場所
① 改善してもらいたい言動を叱る
叱る対象は、改善してもらいたい言動です。
叱る中でヒートアップしてしまい感情的になると、どの発言、どの行動を改善して欲しいのか伝わらなくなります。
また、「だからお前はダメなんだ」「全部説明しないとわからないのか、要領が悪いな」のように、特定の言動ではなく、人格を否定することは最もダメな叱り方です。パワハラと捉えられても仕方ありませんので、注意しましょう。
② ダメと共通認識があることを叱る
コンプライアンスや社内ルール、チームの決め事・約束事、一度指導したことなど、明確にダメと言えることだけ叱りましょう。
メンバーは多様な価値観を持っており、能力や強み、これまでに経験してきたことも異なります。あなたにとっては当たり前でも、それが全てのメンバーにとって当たり前ではありません。
共通認識ができていないものは、いきなり叱られてもメンバーは何がダメなのか理解できません。
そのため、誰もが守るべきルール以外はいきなり叱るのを控え、まずは「指導」や「ルール設定」で共通認識を作りましょう。
③ 場所を考えて叱る
叱られること自体ストレスを感じるのに、人前で叱られるとなると尚更です。
ストレスが大きくかかると人は正常な思考ができず、相手の成長のために叱るのに、伝えたいことが伝わらなくなります。
その上、せっかく築いてきたメンバーとの信頼を、大きく消費してしまいます。
メンバーを叱る際は、周囲を気にしない場所へ移るなど、可能な限り皆がいる前で叱らないように注意しましょう。
なお、チーム内でルールを守っていないメンバーを、皆がいる前で「指摘」するのは問題ありません。ルール違反の指摘は、チーム内の他のメンバーにも改めてルールを認識させ、守ろうとさせる効果があります。
きちんと目的を考え、場所や伝え方を正しく選択できるようにしましょう。
いかがでしたでしょうか?
今マネジャーをされている方の中には、過去の上司からの厳しい叱責を受けて育ってきたという方も多いと思います。
マネジメントについて学ぶ機会は少ないので、自身が過去に上司から受けたマネジメント手法がベースになっていることが多いです。
しかし、転職の一般化、パワハラ防止法の施行、ゆとり世代/さとり世代と言われる若手メンバーなど、時代の流れとともに環境や価値観が変化したことで、過去の次代の叱り方ではうまくマネジメントできないばかりか、上司として信頼を得ることも難しくなりました。
今の時代にあった叱り方をマスターし、マネジメントに活かしていきましょう。