マネジメントにおいて、傾聴やコーチングなど、相手の話を「聴く」が大切だと盛んに強調されます。それ自体は間違いではありません。
しかし、同様に自分の考えを「伝える」ことも非常に重要です。
今回は、マネトレの利用者データから判明した、部下の不満が蓄積する残念な管理職の特徴ついて解説します。
信頼されていない管理職に共通する「伝える力」の欠如
チームメンバーからの「上司への信頼」が低いケースでは、さまざまな要因が考えられますが、マネトレの利用者のデータを分析する中で、ある共通の特徴が見えてきました。
課長でも、部長でも、あるいは業界や職種が異なっても共通するそれは、指示の「目的」や「背景」といったことを部下に明示していないという点です。
目標や、やるべき事は伝えます。ですが、そこに目的や背景がないのです。
上司が指示したことと、部下が考えていることが違う場合、なぜ?が伝わらないと、部下は納得できず不満が溜まります。そして、どんどん心が離れていく状況が見えてきました。
一見当たり前のように思えますが、当事者である上司は、サーベイの結果を見るまで、ほとんどのケースで自覚症状がありません。いったいなぜでしょうか?
それは、指示を出せば皆が従ってくれているため、本人は何ら不満を生んでいると思っていないためです。
そして、部下の方から「なぜですか?」となかなか上司に突っ込めない日本企業の風土や、目上の人にモノが言いにくい日本人の性格によって、放っておくと問題はさらに悪化します。メンバー同士で影で不満を言い合うようになり、不満がさらに増幅されるスパイラルになってしまいます。
部下からの上司への信頼は、マネジメントの土台となります。ここがなければ、他のどんな良い行動も効果を十分に発揮できなくなります。
そのため、上司への信頼が低いチームでは、メンバーのモチベーションの低下、離職率の増加、チームの生産性の低下、といった問題が起こりやすくなります。
部長の伝え方から社員のモチベーションが低下していた事例
とある上場企業で、下記のような事例がありました。
その組織では、部長に対する評価が悪く、メンバーは不満を抱えていました。
そして、部長は、サーベイの結果を見るまで、自分自身の行動になんら疑念を抱いてはいませんでした。自分では、モチベーション高く仕事に取り組み、的確に指示を出していたつもりだったのです。なぜこんなことが起こっていたのでしょうか。
その部署では、マネジャーが最終承認を取るために上げた内容を部長が毎回変更していました。結果、いつも納期ギリギリでの変更となり、メンバーは残業して間に合わせる形になっていました。
メンバーは毎回納期ギリギリで変更する部長の意図が分からず、意味も分からない仕事をさせられることにストレスを感じていました。
しかし、部長にモノを言うことができず、不満が蓄積していっていたのです。
課長の中には、この変更は無駄であると進言した人もいたそうです。ですが、部長は話を聞くものの、その課長に納得してもらうための対話はせず、自身の意図を伝え変更を実施させました。対話がなかったため課長は部長の意図に納得しておらず、メンバーに意図が伝わることもありませんでした。
最終的に、誰もが部長に対し諦めてしまい、不満を抱えながら、残業をして指示をこなしていたのです。
これは、部長という立場でメンバーを従わせているだけで、マネジメントができていなかったケースです。
従ってくれていることと、納得して行動していることでは、雲泥の差があります。
今回であれば、下記のような行動が部長には必要でした。
・変更の意図や目的をマネジャーに伝える、納得してもらうための対話をする。
・どうして残業してまで変更すべきなのか、という背景を説明する。
・マネジャーからメンバーに、変更の意図や目的が伝わっているか確認する。もし伝わっていなければ自分からも直接伝える。
・納期ギリギリでの変更を避けるために、最終承認で確認するのではなく、草案段階で一度チェックするような形に業務フローを変更する。
もちろん、「目的」や「意図」をきちんと伝え、部下を信頼して任せる。上がってきた結果を承認する。という方法もあるでしょう。
なぜ目的を伝えることが大切なのか
目標を伝えなければ、そもそも相手が何をすればいいのか分かりません。そのため、目標やタスクを明示することは、ほとんどの管理職が行っています。
しかし、その「目的」や「背景」を伝えるという行為を、管理職はおろそかにしがちです。
わざわざ伝えなくても、メンバーは分かっているだろうと思っていたり、メンバーは理解、納得していないのに、伝えて終わりになっていることも多いです。
そして、伝えなくても立場によって人を従わせてしまうことが一定できてしまうことから、メンバーの不満を上司は自覚しにくい構造があります。
例えば、4月2日に「4月10日までに冬の新商品プランを考えて、企画とデザイン案の報告が欲しい」と目標を伝えたとします。目標だけを伝えた場合、部下はどのように思うでしょうか?
なぜ短納期で対応しなければならないのか?今の時期に先過ぎる冬の新商品プランが本当に必要か?企画が決まらないこのタイミングでデザインまで進めることに意味がないのでは?・・部下はさまざまな疑問が浮かぶはずです。
組織運営の中で意見の違いが発生するのは当然です。ですが、そのすれ違いを放置していることは離反を招きます。
また、目的が分からず、やるべきことだけが振られると、メンバーはやらされ感が強くなります。
人は目的や背景が分からなければ納得できません。納得できないことに自ら進んで協力する、主体的に行動することは難しいのです。
そして、きちんと「伝える」ことをしなければ、メンバーとの対話が生まれず、すれ違いに気づけません。
- 目的:その仕事を「なんのためにするのか?」
- 背景:「どうしてやらなければならないのか?」
目的を説明し、メンバーが理解・納得してくれれば、目的を実現するために懸命に仕事に取り組んでくれる可能性が高まります。
背景を伝えれば、やっかいな仕事や、ややこしい状況に合っても、仕方ない・やらなければならないとメンバーが納得して取り組んでくれる可能性が高まります。
メンバーが納得していないようであれば、お互いのすれ違いを理解し、納得してもらうために「対話」をすることができます。
目的と背景は近しく、背景は毎回伝える必要があるとは限りませんが、今回の事例のような急な変更や、残業などのメンバーの負担を強いる場合は、伝えるべきでしょう。
指示するだけがマネジメントではない
いかがでしょうか?あなたはきちんと目的や背景を説明していますか?
マネジメントがきちんとできていようがなかろうが、あなたの立場によって、多くのケースで部下は従ってくれます。
ですが、立場で従わせているだけではマネジメント失格です。
あなたが自発的に目的や背景を伝えないと、部下には絶対に伝わりません。
日本企業や日本人の多くは、風土や文化的背景から、部下が上司に対しモノを言いにくい状況があります。あなたが意図していなくても、部下は上司にモノが言いにくく、空気を読んでしまいます。部下から積極的に聞いてくることを期待してはいけません。
自分の考え(目的、背景)を伝えることで、メンバーとの双方向のコミュニケーション(対話)が生まれます。対話が生まれれば、お互いのすれ違いを埋める努力ができます。
目標やタスクの「指示」に偏りがちと思った方は、さっそく「目的」や「背景」を伝えることに取り組んでみてください。