「メンバーの自尊心を傷つけるので、みんなの前で絶対に叱ってはいけない。叱るときは個別に」とマネジメント研修等でよく耳にします。
実際に実行してみると、「叱るではなく指摘や注意、指導といった日常でよく使うものまで周囲に人がいる場ではだめなのか?」と疑問に思う方が少なくないようです。
人前で「叱る」ことはデメリットが大きく、やめるべきというのは確かにその通りなのですが、「叱る」までいかない、通常の指導や注意においても同様に当てはまる、という訳ではありません。
あまり多くはありませんが、「人前で注意や指導をする」方が、むしろ良いケースもあります。
みんなの前で注意や指導しないことで、チームに悪影響を与えてしまうことがあるのです。
今回は、みんなの前で注意や指導すべきケースと、その理由について解説します。
みんなの前で注意や指導することによるデメリット
人前で注意や指導することのマイナスはイメージしやすいと思います。
叱るというような厳しいものでなくとも、場合によっては本人の自尊心を傷つけてしまう可能性があることです。
また、本人の反発心を生んだり、ストレスにも繋がる恐れがあります。
たまに周囲へ檄を飛ばすことを目的に、人前で叱責や怒りをあらわにしたり、トラブル時の回避方法として部下を客前でこっぴどく叱るといった形で、意図的に怒りや叱責を使う方いますが、こうしたマネジメント手法は時代遅れの自己満足であり、すぐにやめるべきです。もっと良い方法がたくさんあります。
今はだいぶ変わりましたが、日本には人前での怒りや叱責も許容されているような文化・空気があります。
しかし、これは世界で見るとかなり特殊です。
欧米ではそうした行為はパワハラになりますし、叱る側が自分をコントロールできない未熟な人間だと評価を下げることになります。
東南アジア圏ではメンツを非常に重視するため、人前で叱責することはタブーとされており、叱責しようものなら恨みを買います。周囲のメンバーからも総スカンを食らうでしょう。
国による違いはあれど、人前での叱責や怒りを良しとしない方向に日本も進んでいることは確かであり、怒りや叱責を利用したマネジメントは通用しないと考えるべきです。
- 自尊心を傷つける
- 反発心を生む
- 過度なストレスになる
- チームのメンバーが失敗を恐れ挑戦しなくなる
みんなの前で指導すべきケース①|会社やチームの方針、価値観に背くような言動
では、周りにチームメンバーがいる環境で「注意」や「指導」しないことのマイナスはないのでしょうか?
- 価値観や重視することが、本当は重要ではないという誤ったメッセージを与える
- メンバー間で言いたいけど言えない不満が蓄積し、チーム内の関係性が悪くなる
チームをマネジメントする上で、上司は様々な場面で、会社の方針やチームの方針、重視する価値観、許されない行動や態度、そうしたチームの構成員が共通して持っておかなければならないことを伝えてきたと思います。
それは発言の一貫性だけでなく、一貫した態度でも示す必要があります。そうでなければ、チームのメンバーは上司の発言は口だけだと思い、それに則った姿勢や行動を取らなくなります。
例えば顧客満足度No1を掲げており、顧客には常に「様」をつけて呼ぶことをルールにしているチームがあるとします。
そこで、ある顧客を呼び捨てで呼び、顧客へのリスペクトがない発言をしているメンバーを上司が見かけた場合、周りに他のメンバーがいようと、即その場で注意しなければなりません(当人に配慮しながら注意していることが周囲にわかるように、その場ですぐに個室に呼び出すでもOKです)。
チームの方針や価値観に背く行動をしたメンバーがいた際に、それを当人に配慮して「後で」個別に指摘をすると、周囲のメンバーにはその行為が見えません。
メンバーにとって見えていないということは、メンバーから見ればやっていないことと同じです。
これは、マネジャーが不適切な言動を黙認したと見られてしまい、一貫した態度から離れてしまいます。
結果、上司はきちんと当人に指導しているのだけれど、他のメンバーからは、チームの方針や価値観は口だけなんだとなってしまい、上司の発言は力を失います。
チームに共通する大切なことは、すぐにその場で注意、指導しなければなりません。
それは、周囲に他のメンバーがいてもまったく問題なく、リーダーとして一貫した態度を示すために必要なことなのです。
みんなの前で指導すべきケース②|特定の誰かがチームに迷惑をかけている
上司はメンバーに対して指摘したり注意したりできますが、メンバー同士はそうもいきません。
周囲に迷惑な行為をしている人がいて嫌だと思っても、直接本人に言いづらいのです。注意することによって、関係性が悪化することを恐れたり、面倒は避けたいと思い我慢してしまいます。
すると、そうした不満が積み重なり、次第にメンバー同士の関係性がギクシャクしてきてしまいます。一度関係性が悪化してしまうと、それを元通りに戻すのは大変です。
多くの場合、目に見える大きな出来事がきっかけで関係性が悪くなるよりも、日々の小さな軋轢やズレが積み重なり、チーム内の人間関係は徐々に悪化していきます。
例えば、咳をしているのに会社で仕事をしているメンバーがいるとします。
本人はどうしてもやりたい仕事があり、頑張ろうと思ってその場にいます。
ですが、周囲のメンバーからすれば、迷惑以外の何ものでもありません。風邪を移されたらたまったものではありません。
個の視点でなく、チーム全体の視点で見れば、最低でもリモートワークさせることに異論は無いでしょう。
こうしたケースでは、メンバーは体調不良で会社に来ているメンバーに大丈夫?帰ったら?とまでは言えるかもしれませんが、迷惑だから帰れとは言えません。
「いえ、大丈夫なのでマスクをします」「ここまでやってから帰ります」と当人に答えられたら、メンバーにはもう手の打ちようが無いでしょう。
このような場合、リーダーが当人にどうしてダメなのかをきちんと伝え、「帰りなさい」と注意すべきです。周りが言いたくても言えない不満を、リーダーが代弁する必要があるのです。
そうすることによって、メンバーから当人に対する不満や怒りはなくなります。
もし、リーダーが注意しなければ、メンバーは不満を抱えたまま仕事をすることになります。
言えない不満は大きくなります。
そして、注意しないリーダーに対しても不満の矛先が向いてしまうことになります。
みんなの前で注意や指導すること全てが悪ではない
いかがでしたでしょうか?
実態として、日常的に使われる指導や注意は自席で行われることが普通でしょう。毎回個別に対応していては、マネジメント業務が回りません。厳しめの注意や指導を行う際だけ、場所を移すといった配慮をされている方もいると思います。
今後、どうすべきか迷われる場面があれば、ぜひ今回の基準を参考に判断してみてください。
人前で注意や指導した方が良い場面は、先に挙げたように極めて限定的です。ですが、時にそれはとても重要になります。
本人を傷つけたり、失敗やミスを恐れさせたりすることがないようにリーダーは注意すべきです。
しかし、言うべき時に言うべきことを、はっきりと発言することはリーダーシップを発揮するために必要になります。
うまく使い分けていきましょう。